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浄化槽およびブロワの省資源・省エネ化
井村 正博、水野 雄次
フジクリーン工業株式会社
(月刊浄化槽 2007年12月号)
1.
はじめに
2.
省資源化、省エネ化技術の変遷
3.
まとめ
4.
おわりに
1.はじめに
現在、我が国では低炭素化社会、循環型社会の構築のためにあらゆる方面で省資源化、省エネ化、リサイクル化が求められており浄化槽についても例外ではない。
浄化槽については、水質保全の観点からその処理機能や維持管理に関する数多くの報告が行われ、また、浄化槽が持つ経済的効果に関する報告も多く行われてきた。最近ではLCA(ライフサイクルアセスメント)手法を用い、資源やエネルギーの消費、それに伴う二酸化炭素(CO
2
)の排出量など浄化槽が環境に与える影響に関する報告が行われるようになった
1)、2)
。
本稿では、浄化槽が環境に与える影響を調べるために浄化槽が持つ環境負荷に着目し、自社で工場生産された数種の戸建住宅用浄化槽について製造・輸送・施工までを設置段階とし、それぞれの環境負荷量をCO
2
の排出量で算出し比較検討した。また、設置後使用を開始してからの使用段階については浄化槽に使用されるブロワの消費エネルギーを求め、浄化槽の設置段階の環境負荷量と比較した。
2.省資源化、省エネ化技術の変遷
2−1 浄化槽の設置までの環境負荷量
(1)
環境負荷量を求める方法
昭和55年に構造基準が改正されたが処理対象人員が50人以下の小規模浄化槽では単独処理浄化槽の構造のみが示され、合併処理浄化槽の構造は示されなかった。弊社では同時期に戸建住宅用の合併処理浄化槽の研究開発を始め、昭和59年に我が国初のし尿と雑排水を合わせて処理する戸建住宅用の合併処理浄化槽で告示第8に基づく建設大臣認定を取得し製造・販売を開始した。その後、昭和63年に小規模合併処理浄化槽の構造基準が告示され、構造基準型の合併処理浄化槽が広く設置されるようになった。更に平成10年には建築基準法が改正され、構造基準に準拠せず、性能評価試験に合格した様々な処理方式の性能基準型の浄化槽が次々に出現するようになった。(社)浄化槽システム協会の出荷統計では、最近出荷された浄化槽の約96%を性能基準型浄化槽が占めるようになった。
過去20数年の間に自社で製造した戸建住宅用の浄化槽について、浄化槽が環境に与える影響を検討するために、製造時期別に3種類の浄化槽として告示第8に基づく大臣認定型浄化槽、構造基準型浄化槽、性能基準型浄化槽を取り上げ、製造、輸送、施工の設置までの各段階におけるインベントリ分析を行ない、それらの環境負荷量をCO
2
排出量で算出し比較する
3)
。比較検討の対象となる浄化槽は5人槽で処理水のBODが20mg/L以下の標準タイプとした。これらの浄化槽の各種仕様を表-1に示す。ここでは大臣認定型のフジクリーンK型をA型、構造基準型のフジクリーンLC型をB型、性能基準型のフジクリーンCS型をC型と呼ぶことにした。C型の本槽については当初スプレーアップ成形(SPU)で生産し、その後メタルマッチドダイ成形(MMD)によるプレス化に変更した。成形方法の違いを示すためにスプレーアップ成形をC(S)型とし、メタルマッチドダイ成形をC(M)型と表示した。
表-1 環境負荷比較用浄化槽(5人槽)の各種仕様
浄化槽の種類
仕様
単位
A型
B型
C(S)型
*1
C(M)型
*1
分類
-
大臣認定型
構造基準型
性能評価型
同左
処理方式
-
沈殿分離・接触ばっ気方式
嫌気濾床・接触ばっ気方式
担体流動・生物濾過方式
同左
外形寸法;幅
m
1.65
1.25
1.11
1.11
...................
長さ
m
2.33
2.23
2.16
2.16
...................
高さ
m
2.18
1.75
1.57
1.57
有効総容量
m
3
4.76
2.79
2.06
2.06
容積比率
*3
%
100
73
43
43
表面積比率
%
100
73
63
63
FRP重量比率
%
100
85
66
61
成形方法
-
スプレー
スプレー
スプレー
MMD
*2
製造年
年
1984
1990
1999
2006
*1;C(S)型はスプレー成形、C(M)型はMMD成形
*2;MMD;マッチドメタルダイ(プレス成形)法
*3;容積比率、表面積比率、重量比率はA型を100%とし、
その他の浄化槽はA型に対する比率を示す
調査する主な項目を以下に記す。
@
製造;本槽、仕切り板等の主要材料である繊維強化プラスチック(FRP)の材料構成比率とそれぞれの使用重量および槽内部品として使用される濾材、接触材、担体、配管用塩ビ部品等熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVA)等の使用重量。尚、FRP関連の材料については主要なもののみとし、使用量が少ない硬化剤、接着剤などは除外した。
A
製造;成形や組立工程など製造段階で使用される電力量および燃料使用量(光熱エネルギー)
B
輸送;工場から設置現場(または販売会社)までのトラック輸送に要する燃料使用量
C
施工;設置工事で使用するコンクリートや鉄筋などの材料の種類と使用重量および土木工事の掘削・埋設・埋戻などで発生する土砂をトラックで運送する燃料使用量
各段階についてそれぞれ浄化槽別に環境負荷量を求める。CO
2
排出量を求めるために使用する環境負荷原単位を表-2
3)〜7)
に示す。
次にCO
2
排出量を以下に示す方法で算出する。
@とAの製造段階での環境負荷量については、浄化槽を構成する材料(マンホールも含む)の材質の種類と使用重量を求める。次に成形および組立時の製造過程で使用する動力、燃料、照明、空調などに要する光熱エネルギーをそれぞれ求める。材料の使用重量と製造過程で要した光熱エネルギーを合わせて、浄化槽ごとに製造段階の一基あたりのCO
2
排出量を表-2より算出する。
Bの輸送段階での環境負荷量については、浄化槽の形状、寸法から4トン貨物トラックに積載可能な基数を定め、製造工場と設置現場(あるいは販売会社)までの標準的な輸送距離を100kmと仮定し、それを基準にして輸送トラックの1kmあたりの燃料使用量から浄化槽ごとに輸送段階の一基あたりのCO
2
排出量を表-2から算出する。
Cの施工段階での環境負荷量については、設置工事に使用するコンクリートや鉄筋などの材料の種類と使用重量を求める。次に土木工事で重機等の運転のための燃料使用量および浄化槽の形状、寸法から2トントラックでの土砂搬出のための延べトラック台数と工事現場と土砂処分場までの標準的な輸送距離を5kmと仮定し、それを基準として輸送トラックの1kmあたりの燃料使用量を求める。浄化槽ごとに施工段階の材料使用重量と燃料使用量を合わせて1基あたりのCO
2
排出量を表-2より算出する。
尚、C(S)型とC(M)型の浄化槽は成形方法が異なるが、容量、外形寸法等は同一のため、輸送および施工の環境負荷量は同一とした。
更に、各段階(製造、輸送、施工)を全て合わせた設置までの総CO
2
排出量を製造、輸送、施工に伴うCO
2
排出量から浄化槽別に算出する。
表-2 環境負荷CO
2
原単位表
名称
単位
CO
2
発生量*
ガラスロービング
kg-CO
2
/kg
2.06
チョップドガラスマット
kg-CO
2
/kg
2.81
不飽和ポリエステル樹脂
kg-CO
2
/kg
5.00
炭酸カルシウム
kg-CO
2
/kg
0.09
ポリプロピレン(PP)
kg-CO
2
/kg
1.03
ポリエチレン(PE)
kg-CO
2
/kg
0.91
ポリ塩化ビニル(PVC)
kg-CO
2
/kg
1.36
電力
kg-CO
2
/kwh
0.45
燃料重油A
kg-CO
2
/L
2.89
燃料LPG
kg-CO
2
/L
3.20
セメント(生コンクリート)
kg-CO
2
/kg
0.50
普通鋼棒鋼
kgCO
2
/kg
1.21
4トントラック
kg-CO
2
/km
0.47
2トントラック
kg-CO
2
/km
0.32
*原単位の出典については参考文献1)〜5)で本稿末に記す
表-3 設置までの各段階でのCO
2
排出量・排出比率
排出量・排出比率
単位・%
浄化槽の種類
A型
B型
C(S)型
C(M)型
製造による排出量
kg-CO
2
/基
648
579
498
316
同上 排出比率
%
100
89
77
49
輸送による排出量
kg-CO
2
/基
23.6
9.5
7.9
7.9
同上 排出比率
%
100
40
34
34
施工による排出量
kg-CO
2
/基
532
353
302
302
同上 排出比率
%
100
66
57
57
総排出量
kg-CO
2
/基
1204
942
808
626
同上 排出比率
%
100
78
67
52
*排出比率はA型を100とし、その他の浄化槽はA型に対する比率を示す
(2)
CO
2
排出量の比較
(1)の方法によって算出したCO
2
排出量および排出比率の結果を表-3に示す。
@
製造段階のCO
2
排出量は浄化槽の処理方式によって大きく異なり、大臣認定時(A型)から構造基準時(B型)、更に性能評価時(C型)へと時代とともに浄化槽のコンパクト化が進められ、主に材料使用重量の減量化によってCO
2
排出量は大幅に削減された。更にスプレー成形からMMD成形への成形方法の変更や組立工程の作業効率化などによって工場での製造過程で大幅な光熱エネルギーの削減が行われた。その結果、1984年のA型製造時のCO
2
排出量を100%とするとB型のCO
2
排出比率は89%、C(S)型のCO
2
排出比率は77%、そして2006年のC(M)型製造時のCO
2
排出比率は49%まで低減した。
A型の総有効容量(表-1)と製造段階でのCO
2
排出量(表-3)を100%とするとB型の容量比率は73%であるが、CO
2
排出比率は89%、C(S)型の容量比率は43%であるがCO
2
排出比率は77%であった。B型やC(S)型の容量比率に比べCO
2
排出比率の割合が高くなっている主な理由はB型やC(S)型では処理性能を高めるために濾材や担体等の槽内部品の材料投入や濾材や担体を支える架台や浮上防止枠等が増加した影響と考えられる。
また、同じ形状寸法のC(S)型とC(M)型のCO
2
排出比率が77%から49%まで減少した理由は、プレス化による成形サイクルの短縮による1基当たりの成形エネルギーの削減(生産性の向上)、剛性強度向上に貢献する増量剤の添加および組立効率の向上などとともに照明や空調などの光熱エネルギーの省エネ化が進められたことが挙げられ、その結果、C(M)型のCO
2
排出量は大幅に削減されたと考えられる。
ここで、CO
2
排出量削減をバックアップする設計要因について述べることにする。FRP製浄化槽は複数の円弧と折り返しのコルゲートやリブによって構造強度を満足するシェル構造である。従来、この設計については経験と勘に頼って本槽のコルゲートやリブの形状、板厚や仕切り板の形状、板厚が決定されてきた。近年のコンピューター等の発展によって3次元設計(3DCAD)や有限要素法(FEM)による構造解析システムの支援設計によるエンジニアリング(CAE)が可能となり、槽全体の構造設計は実際の施工条件を入力すれば、コンピューター画面上で各部ごとの構造強度の安全性が明らかにされ、最適な形状や板厚を決定することができるようになった
8)
。CAEによる設計は計画段階で槽本体や仕切り板の構造強度の向上と軽量化という互いに背反する課題を克服し、高品質で完成度の高い製品作りに貢献している。更に、3DCADは各構成部品の金型製作工程に利用するコンピューター支援製造(CAM)へ展開され、数値制御(NC)による機械加工が可能となり、短時間で組立を想定した形状寸法の製品が高い精度で実現している。各部品の品質改善は組立時間の短縮や接着部の勘合精度の向上などCO
2
排出量の削減に繋がる効果をもたらした。
現在弊社で製造されている浄化槽にはFRPの不飽和ポリエステル樹脂に一部再生ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が使用されているほか、槽内部品として使用されている熱可塑性樹脂(PP,PEおよびPVC)は100%再生材料を使用しており、実際のCO
2
排出量は表-3で示した値より更に小さくなると考えられる。
A
輸送段階のCO
2
排出量は、槽容量のコンパクト化により、一台のトラックに積載できる浄化槽の基数が増えたため、1984年に製造されたA型の輸送段階のCO
2
排出量を100%とするとB型のCO
2
排出比率は40%、C型のCO
2
排出比率は34%まで削減された。輸送に関してはコンパクト化がCO
2
排出量の削減に大きく寄与した。
図-1 設置までの各浄化槽のCO
2
排出量比
B
施工段階のCO
2
排出量は、コンパクト化により、土木工事の掘削・残土処分の土砂搬出量やベース、スラブ等の鉄筋コンクリート工事の作業に係わる材料の使用量などが減少したため、A型の施工段階のCO
2
排出量を100%とするとB型のCO
2
排出比率は66%、C(S)型のCO
2
排出比率は57%となった。
C
浄化槽の設置までの製造、輸送、施工の各段階でのCO
2
排出量の割合はそれぞれ製造が51〜62%、輸送が1〜2%、施工が37〜48%となり、製造段階のCO
2
排出量が一番高いが、施工段階のCO
2
排出量も高い割合を占めた。施工段階では土砂の運搬による燃料使用量に比べ、鉄筋コンクリートなどの投入材料によるCO
2
排出量がはるかに高いために施工段階全体のCO
2
排出量が高くなったと考えられる。
設置までの総CO
2
排出量について、1984年に製造されたA型のCO
2
排出量を100%として各浄化槽のCO2排出量の比率を図―1に示す。A型からC(S)型までのCO2排出量の削減は、コンパクト化によって、浄化槽の材料使用量の減量化、輸送、施工の効率化が図られたことが主な要因と考えられ、C(S)型からC(M)型までのCO
2
排出量の削減は、製造過程での光熱エネルギーの削減が主な要因と考えられる。その結果、2006年製造のC(M)型ではCO
2
の排出比率は52%となり、20数年の間に設置までの浄化槽のCO
2
排出量はほぼ半減した。
2−2 ブロワの消費エネルギー
(1)
消費エネルギーの減量化
浄化槽の使用段階での主な環境負荷として、@駆動装置の運転に要するエネルギー、A発生汚泥の処理に要するエネルギー、B保守点検・清掃作業に要するエネルギー、C凝集剤、活性炭、pH調整剤、消毒剤などの消費資材などが挙げられるが、本稿では、「はじめに」で記したように@の駆動装置(ブロワ)の運転に要するエネルギーを取りあげ、ブロワの消費エネルギーを削減するために実施してきた諸技術に加え、使用段階のCO
2
排出量を算出し、設置段階のCO
2
排出量と比較する。
浄化槽に使用される駆動装置としてブロワ、ポンプ、自動スクリーン、薬注装置などが挙げられる。昭和44年にわが国初の浄化槽の構造基準が告示され、好気処理として活性汚泥方式が取り入れられるようになってから、空気を送り、攪拌(ばっ気)するためのブロワは広範に用いられるようになった。現在稼働している単独処理浄化槽を含む全ての浄化槽の中で平面酸化方式、散水濾床方式、回転円板方式などを除くほとんどの浄化槽でブロワは使用されている。特に、戸建住宅用の浄化槽では一部放流ポンプを除くとブロワ以外の駆動装置はほとんど使用されていないと言っても過言ではない
図-2 ブロワの送気メカニズム
ブロワには様々な種類があり
9)、10)
、その構造も多種存在するが、戸建住宅用浄化槽に使用されるブロワの種類・方式はそれほど多くない。戸建住宅用の浄化槽で1980年代から現在まで自社で使用してきたブロワについて、吐出風量ごとの型式名、駆動方式、常用圧力、周波数別(50Hz/60Hz)入力、重量および製造年を表-4に示す。
表-4 ブロワの各種仕様(自社比較)
※ この当時は65L/minを標準としていた
表-4で示されるように製造時期が1984年(T期と呼ぶことにする)のブロワと製造時期が1990年(U期と呼ぶことにする)のブロワで同じ吐出風量のブロワを比較すると入力が大きく異なっている。これはブロワの駆動方式が異なることに起因している。即ち、弊社ではT期にはロータリー方式のブロワを採用していたが、U期では電磁式ダイアフラム方式のブロワを開発採用した。ここでロータリー方式と電磁式ダイアフラム方式の送気メカニズムを図-2に示す。ロータリー方式は入力をモーターの回転に変換し、シリンダ内に偏心して取付けられたロータが回転し、ロータの溝に納められた可動ベーンがロータの回転によってその遠心力でシリンダ内面に押しつけられ、シリンダに接触しながら回転することで空気を圧縮し送気する方式で、電磁式ダイアフラム方式は駆動力がモーターではなく電磁石で、振動子に固定された永久磁石と対向する電磁石の吸引力・反発力を利用して振動子を振動させ振動子に連結したダイアフラムの変形によってケーシング内の空気を圧縮し送気する方式である。
ここでブロワの入力エネルギー即ち消費エネルギー(=入力×時間)と出力エネルギー即ち出力仕事(=出力×時間)の関係は
(入力エネルギー)―(出力エネルギー)=L [kw・h]・・・・・(1)
で表される。ここでLはエネルギー損失を表し、その中には鉄損、機械損、負荷損等が含まれ、Lの値が小さいほど同じ入力でも大きな出力を得ることができる。ロータリー方式の場合、回転軸の軸受け損失、ベーンがシリンダ内部を周動するため摩擦損失等機械損が大きいため電磁式ダイアフラム方式より大きなエネルギー損失を生じる。電磁式ダイアフラム方式と同じ出力エネルギーを得るためにロータリー方式のブロワは入力エネルギーを高くしなければならない。電磁式ダイアフラム方式は少風量・低圧力という使用条件で消費エネルギーが少ない方式であるが、中・大規模の浄化槽用のブロワでは多風量や高圧力が必要になるため、電磁式ダイアフラム方式のブロワは構造上、現在のところ使用することは難しい。使用条件によってブロワの方式は異なる。
次に、表-4よりU期のブロワと製造時期が2006年(V期と呼ぶことにする)のブロワを比較すると入力が異なることが判る。U期のブロワとV期のブロワの駆動方式は共に電磁式ダイアフラム方式を採用しているが、式(1)のLの値を低くするための様々な工夫によってV期のブロワでは消費エネルギーを少なくした。具体的な改良点は、U期のブロワに比べV期のブロワは空気の圧縮や移動によるエネルギー損失が少なくなるような構造・形状に改良したことと、振動子の永久磁石に磁力の強い材質(ネオジウム等)を使用することによって、同じ入力でも強い吸引力・反発力を得ることができた。即ち、U期のブロワより少ない入力でV期のブロワでは同程度の吸引力・反発力が得られるようにしたため、消費エネルギーを少なくすることができた。
表-4で示されるように、ブロワの消費エネルギーはT期(1984年)を100%とすると20数年経過したV期(2006年)には30〜50%まで削減された。現在、戸建住宅用浄化槽に使用されている送風量が60リットル/minや80リットル/minのブロワの消費エネルギーは、20数年前の戸建住宅用単独処理浄化槽に使用されていた風量が30リットル/minや40リットル/minのブロワの消費エネルギーより大幅に少なくなっている。
次に、最近設置されたC(M)型の設置までのCO
2
排出量と浄化槽が設置された後の使用段階でのブロワの消費エネルギーを比較する。
C(M)型の運転方法については、ブロワの送風量は常時40リットル/min(入力は41w)で運転されるが、一日に約5分間だけ逆洗が行なわれ、その時は送風量80リットル/min(逆洗時の入力は86w)で運転される。このブロワの一日あたりの消費電力量は0.9877kwhとなる。30年間この浄化槽を使用し続けた場合のブロワによるCO
2
排出量は表-2よりCO
2
排出量の原単位は1kwhあたり0.45kg-CO
2
なので
0.9877×365.25×30×0.45≒4870(kg-CO
2
/30年)
となる。この値をC(M)型の設置までの総CO
2
排出量(表-3より)626kg-CO
2
と比較すると、30年間ブロワを使用した場合のCO
2
排出量が約7.8倍大きな値になった。ブロワの消費エネルギーの減量化は環境負荷の大きな削減になると共に、浄化槽を使用する浄化槽管理者にとっても電気料金の削減に繋がるため、更にブロワの消費エネルギーの削減を進める事が重要になってくる。
尚、C(M)型以外の浄化槽についても、使用段階(30年間のブロワ消費エネルギー)のCO
2
排出量は設置段階のCO
2
排出量より、明らかに大きい値になった。これらのことから浄化槽については製造段階より使用段階のほうが多くのCO
2
を排出することが明らかになった。
(2)
省資源化
ブロワも他の商品と同様軽量化、コンパクト化が進められてきており、表-4では、それぞれのブロワの重量が記されている。同じ風量を吐出するブロワの重量をそれぞれ比較するとT期のブロワに比べV期のブロワの重量は全て半減している。ブロワを構成する材料の主なものはアルミニウム、鉄、銅などの金属で駆動方式によってその構成割合は異なるが、これらの原材料重量の減量化は製造段階でのCO
2
排出量の大幅な削減に貢献している。
小型水中ポンプなどでは金属材料を樹脂化することによって軽量化、コンパクト化が行なわれてきたが、ブロワの場合には樹脂化ではなく駆動方式の変更のほか構造、形状、材質等の工夫改良によって軽量化、コンパクト化が進められた。浄化槽やブロワの製造に使用される各種プラスチックなどの石油資源やアルミニウム、鉄、銅などの金属資源のほとんどは海外からの輸入に頼っている。「資源小国」である我が国にとって、原材料の減量化とリサイクル化などの省資源化を今後も進めていく必要がある。
(3)
浄化槽の少風量化
使用段階の環境負荷を削減するためにブロワの消費エネルギーを減らすほか、浄化槽の処理方式、散気方法、運転方法などの開発・改良によって送風量を減らし、省エネ化を目指す試みは多く行なわれてきた。しかし、小規模の浄化槽では必ずしもブロワの省エネ化に匹敵するような送風量の大幅な減少は達成されていないように見える。逆に最近では高度処理型浄化槽の割合が増し、処理水質のBODが20mg/L以下の標準タイプの浄化槽に比べ送風量の多い浄化槽が増えてきている。
単独処理浄化槽や初期の小規模合併処理浄化槽ではブロワから送られてくる空気は接触ばっ気槽等の好気処理槽への酸素供給と攪拌にほぼ全量が使用されてきたが、最近の小規模浄化槽ではブロワから送られてくる空気は好気処理槽に酸素を供給する以外に、流量調整用、循環用や逆洗汚泥の移送用エアリフトポンプあるいは間欠定量ポンプ等に使用されるケースが多くなっている。
3
.まとめ
浄化槽およびブロワの省資源化、省エネ化活動によって得られた結果を要約し以下に記す。
1)
戸建住宅用浄化槽を対象として製造、輸送、施工の設置までのCO
2
排出量を製造時期の違いによって比較した結果、1984年に製造された浄化槽のCO
2
排出量を100%とすると、新しい処理技術の開発によるコンパクト化と成形・組立方法の改善および設計の適正化等によって2006年では52%となりほぼ半減した。
2)
戸建住宅用浄化槽のブロワ(30~80リットル/min)による使用段階の消費エネルギーについて、1984年に製造されたブロワの消費エネルギー(CO
2
排出量)を100%とすると、駆動方式の変更と形状、材質などの改善によって2006年では30〜50%となり50〜70%削減された。
3)
最近設置されたC(M)型浄化槽(5人槽)で設置までのCO
2
排出量と30年間ブロワを使用した時のCO
2
排出量を比較した結果、使用段階のCO
2
排出量はブロワの消費エネルギーだけで設置段階のCO
2
発生量の約7.8倍となり、CO
2
の排出量は使用段階の方が大きな割合を占めることが明らかになった。
4.おわりに
今年の夏は地球温暖化を実感させるような猛暑と残暑が続いた。京都議定書の第一約束期間が来年に迫り、あらゆる方面でのCO
2
排出量の削減が待ったなしの重要課題になっている。
本稿では、自社で製造した戸建住宅用の浄化槽とブロワについて、20数年に渡って取り組んできた省資源・省エネ化活動の変遷について報告したが、今後はこれまでに実施してきた環境負荷量の削減以上の削減が地球温暖化防止のために求められることが予想される。
浄化槽による環境への負荷を削減するために、散気方法や散気装置の改善による酸素供給効率の向上、必要な時期に必要な酸素量を効率的に供給できる運転方法、酸素を多く必要としない処理方式、太陽、風力、地熱など自然エネルギーを活用する浄化槽の開発、装置のコンパクト化、発生汚泥の減量化、原材料の減量化とリサイクル化、製造方法の改善・効率化、更に、現在の電磁式ダイアフラム方式より大幅に消費エネルギーを低減した新世代ブロワの開発等が挙げられ、今後も省資源・省エネ化をより一層押し進めることが重要な課題になると考えられる。
参考文献
1)
喜多亮夫;浄化槽とLCA(ライフサンクルアセスメント)、月刊浄化槽 2004年9月号 No.341(2004)
2)
西村和之、渡辺孝雄、木曽祥秋;合併処理浄化槽の整備におけるライフサイクルアセスメント的評価の応用、浄化槽研究 Vol.16 No.5 (2004)
3)
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同貼付資料;(社)日本航空宇宙工業会、複合材料のインベントリデータ構築に関する調査報告書 (1999)
4)
(社)化学経済研究所;基礎素材のエネルギー解析調査報告書 (1993)
5)
伊香賀俊治、外岡豊ほか;建築物のライフサイクルアセスメントのデータ開発、第3回エコマテリアル国際会議論文集 (1997)
6)
(社) 未踏科学技術協会;環境負荷システムの評価研究 (1995)
7)
(社)プラスチック処理促進協会;プラスチック製品の使用量増加が地球環境に及ぼす影響評価報告書 (1993)
8)
水野雄次;FRP50年の歩み、強化プラスチックス Vol.51 No.6 (2005)
9)
井村正博;講座 浄化槽用ブロワとポンプ ―No1 ブロワの種類―、月刊浄化槽 2001年9月号 No.305 pp38〜42 (2001)
10)
中野泰昌;ブロワの構造および特徴について、月刊浄化槽 2005年10月号 No354 pp7〜11 (2005)
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