2.リン除去の必要性と開発の経緯 我が国の公共用水域における環境基準達成率は、平成22年度においても全体では87.8%で改善傾向にはあるが、改善にあるのは河川のみであり、依然として海域・湖沼については横ばい状態である。 昭和60年に湖沼法が施行され、指定湖沼の制度が創設されたとはいえ、COD、全窒素、全リンの環境基準達成率は、ともに極めて低い状態で推移しており、富栄養化傾向は依然として改善していない状況である。特に湖沼については、平成15年度に初めて50%を超えたが、依然として53.2%と低い傾向に留まっている。これは、平成15年度より調査対象湖沼を追加したことにより、見かけ上の達成率が向上しているのみであり、この10年間で改善されたとは言えない状態である。 一例として茨城県内の指定湖沼の水質の推移を見てみると9) 、窒素については全体的に横ばい傾向であるが、リンについては削減どころか、どの湖沼も上昇傾向である。特に、霞ヶ浦の北浦が近年高い値を示しており、早急な対策が望まれている。残念ながら、同県内の霞ヶ浦(西浦、北浦、常陸利根川)、涸沼、牛久沼、全ての指定湖沼において、あてはめられた類型の基準値を達成している項目は一つもない状態が継続されている9) 。 また、霞ヶ浦における流入汚濁負荷割合で特にリンについては、生活排水によるものが5割近くを占めており10) 、ここでも、その対策の必要性が示唆されている。 このような現状を踏まえて、指定湖沼として指定されている霞ヶ浦(北浦)や、神奈川県における水道水源地域(相模湖、津久井湖など)、猪苗代湖ならびに仙台市等においては、各種条例や要綱に基づき窒素・リン除去型のみを浄化槽市町村整備推進事業の対象とするなど、戸建て用の浄化槽においてもリンの除去が強く求められている。 一方、十数年前においては、公共用水域の中で,内海,内湾,湖沼などの閉鎖性水域では窒素,リンなどの栄養塩類の流入により富栄養化については進行段階と見られ、閉鎖性水域の水質改善を図るためには,BODやCODなどの有機物質だけでなく,窒素やリンなどの栄養塩類の流入削減が必要不可欠であると言われていた11) 。 このような背景から、窒素,リン除去型生活排水処理システムが注目されて中規模以上の浄化槽(処理対象人員51人以上)では,様々な処理方式の窒素,リン除去型浄化槽が開発されていたが、小規模の浄化槽(処理対象人員5〜50人)では,嫌気好気循環法による窒素除去型の浄化槽は存在するものの,リン除去型浄化槽はコスト面や維持管理面の問題で実用化が遅れていた。 他方,20年近く前から,小規模生活排水処理システムにおけるリン除去の研究は種々行われており12)-15) ,その中で“鉄電解法”の開発により,戸建て住宅用生活排水処理システム(処理対象人員5〜10人)においても,利用可能となった。 この鉄電解法については、森泉ら16)-18) が多くの報告をしているが、簡便な操作で流入負荷に応じて安定したリン除去が可能となり、当社では維持管理頻度に適応した方法として、戸建て住宅用途の浄化槽について採用することとなった。 この時期に筆者ら19) は,円筒形担体を用いた担体流動生物濾過法により生活排水処理の効率化について研究していたので,この方式と鉄電解法を組み合わせた,窒素・リン同時除去型の戸建て住宅用生活排水処理システムについて開発を行った。
3.4 リン除去装置(鉄電解法) リン除去装置の構成(中継ボックスがある旧タイプ)を Fig.3 に示す。セルは主にプラスチック製のセルベース,鉄電極および防水コネクタ付き電源ケーブルから構成され,鉄電極は固定ボルトを介してセルベース内で電源ケーブルと接続されている。制御ボックスは鉄電極へ一定の電流を供給するほか、各種の警報機能を電子制御している。なお、電極表面に酸化膜が発生するのを防止するため、極性転換を1回/日行う機構としている。 鉄電極より鉄イオンを溶出させる装置、すなわち、制御ボックス、中継ボックス(現仕様には無い)、セル(2セット)をまとめて、全体としてリン除去装置と呼んでいる。 担体流動生物濾過槽内水中に浸漬された2枚の鉄電極間に直流電圧を加えると電流が流れ,陽極より2価の鉄イオン(Fe2+)が溶け出す電気化学反応を用いており、そのメカニズムをFig.4に示す。
5.2 ソフト面(維持管理)に関する改善 リン除去については、最近の調査結果や今までの事例から、より安定的にリンを除去するために、昨年7月、保守点検内容について一部見直した。 今までの維持管理要領書では、パワー調整ダイアルの設定については、制御ボックスの設定確認として、「使用水量から換算して相当人員を求め、この“相当人員”をパワー調整ダイアルに合わせる」ことを原則として表記していた。実際には、正確な使用水量を算出することが難しい場合が多いので、カッコ書きの“実使用人員または人槽”での設定をお願いしており、研修会等では“実使用人員以上の設定”を推奨していた。 最近の事例では、パワー調整ダイアルが“実使用人員”に設定されていた場合でも、しばしばリン除去の不安定さが見られ、中でも人員比が0.6以上の場合において、リン除去の不安定さが多く見られた。これより “実使用人員=パワー調整ダイアルの設定”では不十分な場合があり、より多くの現場で安定的にリン除去機能を維持するためには、実使用人員を超えるパワー調整ダイアルの設定も必要な場合があると判断した。 一方で、人槽どおりのパワー調整ダイアルの設定で稼動している施設では、T-P 1.0 mg/l以下の割合(T-P適合率)が15/16=94%と高い値を示した。 以上のことから、パワー調整ダイアルの設置時における初期設定は、人槽と同じに設定し、稼動後しばらくは、“パワー調整ダイアル=人槽”で運転し、パックテストの結果が良好(目安としてT-P 0.2 mg/l以下)であり、低負荷(人員比0.6未満)の場合においてのみ、パワー調整ダイアルの設定変更(低減)を実施することとした。 パワー調整ダイアルの設定フローをFig.10に示し、その結果としての実使用人員とパワー調整ダイアルの設定目安例をTable 1に示す。但し、これはあくまでも個別の例であり、実際にはFig.10の設定フローに従い調整を行う。 最後に、リン除去が不安定な場合の要因についての対応一覧を、Table 2に示す。